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恐る恐る、振り返る。
浴衣姿の美少女は、健全な男子が見れば赤面してしまうこと間違いない、艶めかしい可憐な微笑みを浮かべていた。
無論、俺は万に一つもそうはならない。
何せ、その背後にどす黒いオーラを背負っているからであり。
手元のファイルはと言えば、ぶすぶすと黒い煙を上げながら、今まさに燃え尽きようとしていたからだ。
焦げ臭い匂いが、狭い室内いっぱいに広がる。
「や、だって、その」
「誰の許可を得て、キミは“断る”なんて、愚かしい選択肢を取ろうとしているのかな?」
ぼうっ、と赤い火柱が立ち、ファイルを一瞬にして灰に変える。
次ハオマエガコウナル番ダ。
彼女の優しげな笑顔は、どう見間違おうともそう告げていた。
「だって、さあ……“願望者”の処分て、要するに………だろ?」
自分を指差しながら、無駄だと半ば諦めつつも抗議する。
紅華は、白磁の様に美しい、剥き出しの白い腕で頬杖を突き、にっこりと微笑む。
それは、無言の肯定。
「あのさあ。そんなグロい犯行の手口聞いて、やりたいなんて思う筈ねーだろ? んなヤバい事件、俺じゃなくて恋音にやらせりゃイイじゃん」
「残念ながらレノンには今、別件の依頼に取りかかって貰っている最中でね。 生憎と手が離せない。 何より、今回の様にまどろっこしく手口の輩には、あいつよりキミの方が向いているだろう?」
艶やかな動作で、白く長い指で卓上を指し示す。
卓上の花瓶の百合が、音を立てて燃え上がった。
……逆らったらオマエもこうする、と言いたいらしい。
この可憐なる暴君め。
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