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「…ったく、分かったよ。 誠意を持って取り組まさせていただきマス」
渋々了承してやる。
然も無いと、冗談抜きでこのガキは、自分を焦げ目のついたローストに変えるだろう。
それだけは勘弁だ、まじで。
「んで? とりあえずは連絡待ちで良いのか?」
彼女は盗聴を恐れ、電話で事情を話すことを嫌う。
故に大抵、こうして俺を直接呼びつけ、事情を説明した後に調査に入る。
こちらの返答と質問に、紅華は満足げに腕を組み、
「ああ。 先ずは天壌市内の住民データの確保と、警察のデータバンクへの侵入。 それと、キミが見てきた死体の身元調査と身辺調査だね。 同じ輩による犯行なら、恐らく、ソイツの身の回りでも行方不明者が出ている筈だ。 洗いざらい調べてやるから、こちらからの報告を待ちたまえ」
顔にかかっていた前髪を振り乱し、机の隅にあるパソコンへ向かった。
凄まじい速度で叩かれる、キーボードの音。
忽ちのうちに、室内を沈黙が支配する。
用件は以上、という事らしい。
……毎度毎度思うが、報告の為だけに夜中に呼び出すの、ホント止めて欲しい。
こっちは最終バスで来るから、翌日の始発まで自宅に帰れないのに。
軽い頭痛に額を押さえながら、俺は事務所のドアノブに手を伸ばし、
「何処へ行くんだい、カスカ? これから徹夜作業に取りかかるボクに、夜食の一つも用意せずに帰る気かい?」
「………ええと」
あれ、何だろ。
なんか、目頭が熱いんですけど。
何故か自然と溢れそうになる涙。
俺ってどうして、こんな時間に、こんな所まで、遙々やって来てんだっけ。
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