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◆
…寒い。
とにかく、寒い。
頬を切り裂くような冬の冷たい風に、俺、夜霧 微(よぎり かすか)は、思わず肩を震わせた。
午前一時を回れば、如何に発展の進んだ新都市と言えど、人通りはないに等しい。
周囲のビルの明かりも消え、街灯だけが照らし出す、人気の途絶えた冬の街並み。
その風景は寂しいことこの上なく、寒さをより一層引き立てていた。
「くそっ……なんだっていつもいつも、こんな時間帯に呼び出しやがるんだ、あのガキは」
既に日付の変わった今日は、土曜日。
学生、社会人と誰もが喜ぶ、待ちに待った休日。
もちろん俺も例外ではなく、元々低いテンションがそれなりに上がっていたわけで。
よっしゃあ、久々にゆっくりだらけられるぜヤッホイ。
今夜は氷雨(ひさめ)に借りたゲームを、徹夜でやり込んじまうとしましょうか、うははは。
なんて上機嫌で、買い換えたばかりのプレステにディスクをセット。
コントローラーを握り、今まさに電源を入れるべく指を伸ばしたところで、ケータイに着信。
嫌な予感と共に画面を見れば、案の定、俺の勤め先からの電話だった。
午前0時を過ぎたこの時間帯に、出勤せよとのご命令。
無論、拒否るという選択肢など存在せず。
泣く泣く、俺はコートを取り出し、夜の街に繰り出してきたのだった。
「……にしても、この寒さは尋常じゃないだろ」
吐く息は白く、風はまるで氷の如く冷え切っている。
最後のバスを下車し、歩き始めて二十分。
手は悴(かじか)み、最早感覚がなくなりだしていた。
手袋という装備品を持たない俺には、ほど良い拷問である。
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