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この天壌市は、比較的寒い気候の地域ではあるが、夜とは言えここまで冷え込むのも珍しかった。
事務所まであと十分余り。
俺はたまらず、通りがかったコンビニで温かい缶コーヒーを購入した。
「……あったけぇ」
因みに俺はブラック派である。
微糖やらカフェオレなんて、甘ったるくて飲めたもんじゃない。
プルタブを開け、一口。
熱い液体を喉の奥へと押しやる。
「ふぅ…」
頭から爪先まで、身体が芯から温まるようだった。
そのままちびちび啜りながら、いつもの道を進んでいく。
……と。
薄暗いT字路に、大の字に横たわる人影があった。
「…オィオィ」
呆れて溜め息が漏れる。
人影は車道のど真ん中に寝転んでいた。
恐らく、仕事帰りの酔っ払いだろう。
このまま車が通りかかれば、跳ね飛ばされること間違いない。
というか、この寒さでは凍死する可能性もあり得る。
頼むから、酔いつぶれてぶっ倒れるなら、人様に迷惑のかからないところにして欲しい。
正直、面倒事には関わりたくないが、かと言って俺がスルーしたのが原因で、リアルあの世行きになられても……困る。
化けて出られたりしたら堪ったもんじゃないし。
仕方ないので、声をかけてやることにした。
「あのー、もしもし? こんなトコで寝てたら、死んじゃいますよー…?」
反応は、ない。
こりゃあ重傷だ。
「もしもーし? 何方か存じかねますが、早く起きないとお財布の中身だけでも頂いちゃいま、」
そこまで口にして。
ふと、そこいら中に充満しているらしい妙な匂いに、言葉が途切れた。
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