2004.12.02 口腔清掃

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「――――!!! ぁ、が、…!?」 全身が、びくんと跳ねる。 出鱈目な形の刃が、頬の裏側や歯茎に引っかかり、深く食い込む。 痛い、なんてもんじゃない。 無理に例えるなら、神経を直に、灼熱の炎で炙られているような、そんな感覚に陥る。 鬼頭は、握る“刃ブラシ”へ更に力を込めると、まるで歯磨きをするように、ごしごしと磨き始めた。 「…………!!……………………!!…………………………………!!!!……………………!!!」 悲鳴を上げることすら許されなかった。 凄まじい力で“磨かれていく”口内。 忽ちのうちに、口の中が血の味でいっぱいになる。 喉の奥から迸る筈だった悲鳴は、血と唾液の嚥下によって、体の奥へと押し戻されていく。 舌先に触れる、固く細かい何かは、削られた俺の奥歯だろう。 刃ブラシが前後左右に動く度、上顎や舌下の肉が抉られていく。 分泌されるモノが唾液なのか血液なのか、今や判別は不可能だった。 「……!!……………、…………………………!!!」 唐突に、上の前歯の辺りに感じる喪失感。 傷だらけの舌で触れてみようと試みたが、何もない。 どうやら、前歯が歯茎ごと削り落とされたらしい。 「お兄さん、ベロ動かさないでよ。 磨き辛いんだから」 誤って舌を噛んだ時にも似た、痛み。 機嫌を損ねた鬼頭に、俺の舌は削り取られたようだった。 ……もはや、口の中がどうなっているのか判らない。 口内を好き放題荒らし回る激痛の嵐に、俺の意識は既に朦朧としていた。 徐々に、その痛みすらも麻痺し始める。 元々薄暗かった視界が、更に明度を落としていく。 氷雨や他の犠牲者も、こんな苦しみの中で、死んでいったのだろうか。 だとしたら、本当に気の毒だったろうな。 他人事のように、心中で呟く。 そう。 結局俺は、最期の瞬間まで、死にたくないという願望すら抱くことはなかった。 自身の命が消え逝く様。 それすらもまるで、全く赤の他人の死を、ニュースで知った時のような感覚で。 薄れていく思考。 鬼頭の狂った笑い声を聞きながら。 俺の意識は、そこで途切れた。  
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