2004.12.02 口腔清掃

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◆ 目を閉じたお兄さんは、陸に上がった魚みたいに、体中をびくびくさせていた。 それもやがて、動かなくなる。 いつもと同じ。 歯磨きをした人は、最後にはみんなこうなる。 「終わったよ? お兄さんの歯は全部なくなったから、もう、歯を磨きしなさいって、怒られる事もないんだよ? ふひ、ふひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」 ぼくはすごい! こうやって、色んな人の力になれるんだ! もう、お母さんに怒られることもない!! 外を歩いても、子どもたちに石を投げられることもない!! 愉快でたまらなかった。 歌でも歌いたくなる。 ぼくは鼻歌を口ずさみながら、お兄さんの口に突っ込んだ歯ブラシを引き抜いた。 ごぽっ、 「…………………え、」 一瞬、何かの見間違いかと思った。 目をこする。 けど、見える。 見間違いじゃない。 血で汚れたお兄さんの口から、真っ白な靄が立ち上っていた。 ドライアイスみたいな、薄い気体。 もやもやしたソレは、部屋の中をぐるぐる回ると、一つの場所へ集まった。 靄が、人間のカタチをとる。 みるみるうちに、輪郭がはっきりしていく。 手足、胴体、頭髪。 眼球、鼻筋、頬、顎。 やがて、集まった白い靄は、一人の綺麗な女の子へと、姿を変えていた。 小学四~五年生くらいの、小さなコ。 真っ白な長い髪に、真っ白な肌、真っ白なドレスと、真っ白な靴。 瞳だけが、蒼い。 ぼんやりと薄い光を纏っている。 今にも消えてしまいそうな、そんな現実感のない存在。 絵本で読んだ妖精さんみたいだった。 だけどその顔には、氷のように冷たい表情が浮かんでいる。
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