2004.12.02 口腔清掃

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「キミ、だあれ?」 『…………………』 女の子は、答えない。 ただ黙って、真っ白な指で、ぼくのことを指差した。 あー、人を指差しちゃいけないんだあ。 そう、注意しようとして。 「ご、ぼっ…!?」 だけど、変わりにぼくの口から出たのは、真っ赤な液体だった。 「!!?」 え? なに? どうなってるの? びっくりして口元を触る。 手のひらに、べっとりした赤い水が付く。 ……これ、ぼくの、血!? それを自覚した途端、口の中に、ものすごい痛みが爆発した。 自分の目を疑う。 ぼくの右手――――歯ブラシを持った手が勝手に動いて、自分の口の中を歯磨きしていた。 慌てて腕を引き抜こうとする。 だけど、右手は言うことを聞かずに、ひたすら歯磨きを続けていく。 ――――痛い!! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! イヤだ! イヤだ! こんな痛い歯磨きはやだ!! 助けて欲しくて、女の子を見やる。 だけど、真っ白な女の子は、こっちに人差し指を向けながら、冷たく一言、 『貴方が与えてきた死者の苦しみ 己が身で直(じか)に味わいなさい』 歯茎や上顎が、がりがり削られていく感触。 溢れ出る血の味。 気持ち悪くて、ぼくは思わず嘔吐してしまった。 「ぉ……ご、ぐぇえ!!」 胃の中身が、血と一緒に吐き出された。 ……あれ? 赤く染まった吐瀉物の中に、何か白い石みたいのがいっぱいある。 拾ってみると、それは、 「!!!!!!」 ぼくの、歯だった。 「……ぃ、………ぁ……ぁ」 続いて、口からぼとぼと何かがこぼれていく。 血の海に散らばるそれらは、全部、ぼくの、抜け落ちた、歯。
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