104人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
暗がりの中。
倒れた鬼頭の身体から立ち上る、黒い靄。
薄く透き通ったそれは、吸い寄せられるように、純白の少女へ集まっていく。
真っ直ぐに伸ばされた、すらりと長い指先へと。
やがて、鬼頭から黒い靄の流出が止む。
指先に集まったソレらは、球体状に纏まり、逃げ場を求めるかのように蠢いていた。
少女はそれを、感情の込もらない冷めた瞳で見詰める。
『去るがよい 主を失いし願望よ』
静かに唱える少女。
その言霊に呼応するかのように、黒い靄の塊が破裂し、宙へ霧散していった。
その様子を冷静な表情で見据えると、彼女もまた、白い気体へ溶け出し、足元に転がる微の体内へと還っていった。
―――そんな、室内で起きた現象を。
“願望者”である彼女は、怯えた眼差しで、呆然と眺めていた。
彼女の手に握られているのは、鬼頭悠生が所持していた物と同様の“刃ブラシ”。
ぴくりとも動かない息子を見下ろしながら、噛み合わない歯をがちがち震わせる。
「くくっ……漸く尻尾を出したね、鬼頭昌枝(きとう まさえ)」
「!?」
唐突に背後から投げかけられた声に、彼女――――昌枝は振り返る。
視線の先。
廊下の突き当たりに、紅い浴衣を身に纏った、美しい少女が立っていた。
「キミなんだろう? 今回の黒幕である“願望者”は」
後退りする昌枝。
その滑稽な姿を嘲るかのように、少女、紅華は鼻を鳴らした。
最初のコメントを投稿しよう!