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昌枝が計画を立て、悠生がそれを実行する。
もとより正常さを持ち合わせていない二人の“願望者”。
互いが互いの願望(のぞみ)を満たしていたが故に、違和感を抱くこともなく、狂行を繰り返していた。
それが、今回の真相だった。
「理解に苦しむよ、全く。 息子の存在の“消滅”ではなく“変化”を望むとはね。 ――――さて、それじゃあ早々に終わらせようか。 ボクの下僕を、もう一度殺されては困るのでね。 ソイツの『奪い去り虚無へ還す者(ロスト・ホロウ)』は、日に一度しか使えないんだ」
紅華の纏う空気が変わる。
身体から立ち込める殺気。
獰猛な笑みを浮かべる彼女は、獲物を前にした肉食獣を連想させる。
全身を震え上がらせ、距離を取ろうと後退を試みる昌枝。
しかし、背後には自分の息子と微の身体が転がっているため、それは叶わない。
そうしている間に。
見る者を圧倒する存在感の持ち主は、既に眼前まで迫っていた。
腕を伸ばせば届く距離。
昌枝はとっさに、手に持っていた“刃ブラシ”を振り上げた。
「む?」
抵抗されるならばまだしも、反撃されるとは予想外だったのだろう。
驚きに目を見張る紅華。
昌枝の“刃ブラシ”は、黒髪の少女の瞳に突き刺さる――――
「ぁ……あああああああああああああああああああああ!!?」
アパート全体へ響き渡るほどの絶叫。
断末魔の如く迸る悲鳴が、彼女の鼓膜を突き破らんばかりに震わせる。
崩れ落ち、悶える敵の姿を見下ろし、彼女――――紅華は顔をしかめた。
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