2004.12.02 口腔清掃

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「ビックリするじゃないか。 いきなり切りかかってくるなんて、無礼も良いところだ」 からん、と床に落ちる、半ば溶解した“刃ブラシ”を見やりながら。 紅華は眉根を寄せ、不機嫌そうに呟く。 足元に転がり、苦悶する昌枝。 その全身は、燃え盛る紅蓮の炎に包まれていた。 身を焼き尽くす灼熱の業火に、忽ちのうちに意識すらも溶かされていく。 「全く…、アイツや雪凜との戦いに備えて、チカラを温存する必要があるというのに。実に不愉快だ」 頭上から降る言葉の意味すら、最早理解出来ない。 皮膚という皮膚が爛れ、今や、断末魔の悲鳴を漏らすことすら許されない昌枝は、己の命が焼かれていく事実を、感じることすら叶わなかった。 「アイツのチカラに染まった輩に、容赦なんて不要だね。 その汚れた魂もろとも、ボクの炎で燃え尽きるがいい」 紅華が命ずると同時、燃え盛る炎が凝縮され、次の瞬間爆発を起こした。 天井まで燃え上がる、一筋の火柱。 それは、鬼頭昌枝の身体を巻き込み、彼女という存在を焼却し、この世から完全に消滅させた。 廊下や壁に燃え移る火種。 少女はそれを、腕の一振りで掻き消すと、部屋の中に倒れる自分の部下を見やり、 「御苦労様。 任務終了だよ、カスカ」 普段決して見せる事のない、親愛と感謝の籠もった眼差しで、優しく告げた。  
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