2004.12.02 口腔清掃

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噎せ返るような、生臭い鉄の匂い。 あれ、なんだっけ、これ。 何時だったか、というか俺の仕事上、結構嗅ぎ慣れた香りのような。 そこまで思い至るのと同時。 唐突に、夜空を覆い隠していた雲が途切れ、綺麗な月が顔を出した。 熱々のコーヒーを口に含みながら、そう言えば今日は満月だったなぁ、なんて感想を抱きつつ。 俺は、先ほどの人影に視線を戻した。 月明かりに照らし出された、車道。 アスファルトの上に倒れる人影は、水たまりの中にいた。 真っ赤な真っ赤な――――血だまりの中に。 その全身を、自らの血液で染めて。 「……あー」 死体っぽい。 死体らしき物体発見。 というか、死体ですね、はい。 頭を掻きながら苦笑する。 死体を見慣れてるってのもあるが……やはり、我ながら相変わらず、随分と冷めたリアクションだ。 だって、仕方ない。 如何なる事態が起ころうとも“それ”を受け入れてしまう。 その本質は、実の妹にあの様な事をされても尚、こうして変わる事はないのだから。 よって、刑事モノのドラマみたく、甲高い叫び声を上げたりなど、間違ってもしない(むしろ、人間は唐突に死体を前にしたりすると、逆に声が出なくなるらしいが)。 ともあれ、まあ、一般的な反応じゃないだろう。 少なくとも、顔色一つ変えないどころか、死体眺めながらコーヒー飲んでる時点で、世間一般から見れば相当ズレていると思う。 …それを頭で理解していながらも、結局変えようとしない自分が、ここにいるわけだが。 「フツーの事件かも知れないけど、とりあえずは報告かねぇ」 無論、警察にではない。 うちの上司に、だ。 この場で通報なんかすれば、第一発見者として事情聴取とかされそうだし。 何より、早いところあのガキに顔を見せてやらないと、例のごとく“中華の刑”にされかねない。 俺は血だまりを踏まないよう注意しながら、死体の転がるT字路を後にした。
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