2004.12.02 口腔清掃

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「……にしても」 つくづく、馬鹿だよなあ、と思う。 あの時の、鬼頭の発言。 幾ら歯を磨かなくて済むからって、歯や舌が無けりゃ、味も食感も分からない。 こうしてコーヒーを飲んだりする楽しみが得られるなら、歯磨きなんて些細な問題じゃないか。 アイツが母親からどんな仕打ちを受けてたのかは知らないけど……。 ハミガキくらい、俺ら一般人からすれば、別に苦じゃないんだけどねぇ。 そんなことを考えている間に、目的地へ辿り着いた。 割と真新しい雰囲気の、見慣れた建物……氷雨の、アパートに。 「……………」 彼女の部屋のドアの前で、ぼんやりと立ち尽くす。 別に、特別な理由があって来たワケじゃない。 もう二度と訪れることもないと思ったら、自然と足を向けていたのだ。 「氷雨……」 散々世話になって。 だけど、亡くなってしまった、俺の友人。 アイツに対する認識は、やはりそれだけだった。 寂しくはあっても、悲しくはない。 ただ、居なくなっちまったんだな…って。 それ以上に感じることは、何もなかった。 「………はあ」 これは個性なのか。 それとも、人間としての欠落なのか。 昔からこうだった自分には判らない。 俺はため息を吐き、鍵の掛かっているドアノブを何となく捻った。 「あれ…?」 開いてる…? なんでだ? アイツ昨日、鍵掛けないまま出かけてたのか? 内心で首を捻りながら、とりあえず、ドアを開ける。
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