2004.12.02 口腔清掃

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玄関横のキッチンに、下着姿の女の子が立っていた。 「―――――――はい?」 先ずは目を。 続いて自分の正気を疑う。 今まさに着替え中、といった様子の、半裸状態の女の子。 そのコは何故か、氷雨にソックリな顔をしていた。 と言うか、氷雨だった。 ―――やばい。 これは幻覚だろうか。 俺、なんかヤバいクスリでもキメてたっけ? 「氷雨、だよな? オマエ、なんで、ここに……?」 「……夜霧。 その台詞、ソックリそのまま返しとくね?」 茹で蛸の如く、顔を真っ赤にした氷雨が迫ってくる。 あ。と思った時には既に、彼女の拳が放たれていた。 顔面にモロに食らった俺は、廊下の手すりに、思い切り背中を打ちつける羽目になった。 「はあ? オマエ、オリエンテーションの後、ファミレスに寄ったんじゃなかったのかよ?」 鞄やら目覚まし時計やらの嵐に見舞われること十分。 氷雨を宥めること更に十分。 ようやく落ち着いた彼女に、家に上がり込む許可を貰ったのは、つい先ほどのこと。 炬燵(こたつ)に潜り込みつつ、氷雨を問い詰めた俺は、彼女の口から語れる真相に面食らった。 「だから行ってないって。 大体私、貴方以外に友達と呼べる相手が居ないの、知ってるでしょう?」 そう。 氷雨はオリエンテーションの後、あのファミレスには立ち寄っていないと言うのだ。 思い返してみれば、確かにそうだ。 現在の専門学校でも、相変わらず、孤立しているという話は、以前コイツから聞かされていた。 オリエンテーションが終わった後は、夕飯の買い物をして、普通に帰宅したらしい。
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