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「じゃあ、あの電話は何だったんだよ? よく聞こえなかったけど、すげー苦しんでたような…」
「あ…あれは、」
氷雨は、気まずそうに視線を逸らし、
「夕飯食べに来ないかって電話掛けたら、電波が悪かったみたいで。 だから窓際に移動しようとしたら、本棚の角に足の小指ぶつけて、上に乗ってた辞書が頭に落ちてきて……その拍子にケータイ落として、慌てて拾おうとしたら、踏んづけて、壊しちゃったのよ……」
なんだ、その不幸スキル。
呆れる俺を恥ずかしげに睨みながら、部屋の隅っこを指差す氷雨。
座布団の上。
見事に真っ二つに折れたケータイが、悲しげに鎮座していた。
それはやはり、あの首なし死体の握り締めていたケータイと、同じ機種だった。
「オマエ、そんなドジっ娘キャラだったっけ?」
「……五月蝿い。 誰にだって、失敗することはあるのよ」
そう告げて、一方的に会話を断ち切ると、氷雨は立ち上がった。
相変わらず無表情なものの、その頬は朱に染まりきっている。
「お昼、まだなんでしょ? 昨日の作り置きのカレーがあるの。 食べていきなさい」
逃げるように台所へ立ち去る氷雨。
そんな友人の後ろ姿を眺めながら、自分が、ようやく、盛大な勘違いをしていたことに気付いた。
じゃあ、なに?
結局俺は、氷雨が殺されたと結論づけて、勝手に辻褄を合わせて、納得してたってコト?
「なんだい、そりゃ」
疲労感がドッと込み上げてくる。
自分自身が死ぬほど馬鹿馬鹿しくて、俺は炬燵にガックリと突っ伏した。
安心したせいか、急に眠くなってきた。
もういいや。
今日もこのまま、コイツん家に居座ってやろう。
これからも付き合ってくんだ。
“現在(いま)”があるうちに、散々世話になってやる。
漂ってくるカレーの匂いを嗅ぎながら、俺は再び、深い眠りへと落ちていった。
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