2004.12.02 口腔清掃

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口元を吊り上げ、くすくす笑う紅華。 だが、その目はちっとも笑っておらず、底冷えするような冷酷さを秘めている。 彼女がこの内容に対し、苛立ちを感じている証拠だ。 「最初の事件が起こったのは一月前。 市内在住の一人の女子高生が、夜中に繁華街の裏通りで死亡しているのが発見された。 一緒にいたと思われる友人は行方不明、依然として見つかっていない。 そして、発見された女子高生の死因が、」 「――――口内を、滅茶苦茶に切り裂かれた事による、出血性ショック死……オィオィ、何をどうしたらそんな風になるんだよ」 そんな殺害方法、聞いたことがない。 大体、ショック死するくらい口の中を滅多刺しにするだなんて、明らかに正気の沙汰じゃない。 「さあね。 大方、妙な歯ブラシで歯磨きでもされたんじゃないのかい?」 「んなアホな……って、だからハミガキ殺人、なのか?」 「マスコミの間じゃ、そう騒がれてるみたいだね。 確かにそれにも興味は沸くけれど、問題はそこじゃあない。 ボクが困っているのは、それが一件に止まらず、未だ続いているという点なのだよ」 「連続って、まさか…」 俺の驚きに、紅華は神妙な表情で頷く。 小学生にも見える筈の外見が、急に大人びたように思えた。 「そうだよ、カスカ。一人が口内をズタズタに引き裂かれて死に、その連れが行方を眩ます。 そんな事件が、この街でもう1ヶ月もの間、繰り返されているのさ」 「……まじかよ」 それは最早、単なる快楽殺人者による犯行、では決してない。 何故ならこの事件は、どう考えても“殺人”ではなく“口内を弄る”事に観点を置いているからだ。 俺たちにとって、殺人を犯すことを目的としている間は、まだ“犯行”のカテゴリに分類される。 だが、人殺しの“方式”に懲りだしたり、それについて“楽しみ”を見いだすようになれば、それは“狂行”即ち異常となる。
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