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紅華が苛立っている理由が。
そして、こんな時間帯に俺が呼び出された理由が、ようやく理解できた。
何故なら、これは確実に――――、
「その通り。 この連続殺人、及び失踪事件は、明らかに“願望者”による狂行さ。 又してもこの街に、願望(のぞみ)を叶える少女が現れたのだよ」
苛立たしげに腕を組みながら、彼女は告げた。
端麗な美貌を皮肉げに歪める。
俯いて肩を震わせる。
自然なままにされた黒髪が、蜘蛛の糸の如くだらりと垂れ下がり、彼女の貌(かお)を覆い隠す。
隙間から覗くその瞳には、黒く、暗い憎悪の炎が、静かに揺らめいている。
彼女の持つ、深淵よりも深い闇。
その一部が垣間見えた気がするのは、錯覚ではないだろう。
口元に浮かべる笑いは、獲物を狙う、壮絶な獣の笑み。
普通の者が見れば、美しくも恐ろしいその形相に、思わず身震いしていただろう。
それ位、今の彼女は凄まじい気迫を放っていた。
「そういう訳で、仕事だよ、カスカ。 ボクが犯人を特定する。 キミには、即座に“願望者”の確保、及び処分を命ずる。迅速な対応を頼、」
「お断りします」
俺は即座に踵を返すと、早足に事務所の出口へ向かった。
―――瞬間、耳元で「ヒュン」と一筋の風切り音。
続いて、何かがドスっと刺さる音。
古い木製のドアに、銀色のナイフが突き立っていた。
「……待ちたまえよ。 断るとはどういう了見だい? 微生物」
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