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重い瞼を片方づつ持ち上げると、ぼやけた視界に見慣れた天井が映った。
また飲み過ぎた……
夕べの記憶を辿ってみるが、途中から曖昧になる。
いつも、そう。ほどほどでやめておけば何も問題はない。
とりあえず重い足を引きずるようにして出勤したのだが、果たして仕事になるのやら。
彼、斎藤七星(サイトウ・ナナセ)はオフィスのロビーで大あくびをした。
「おはよう、斎藤君」
再び襲ってくるあくびをかみ殺しながら、七星は振り向いた。
近付いてくる長身の若い男。黒いスーツと、紫のネクタイ。どちらもセンスが良い。
紫は古くから高貴な色とされてきて日本人の顔には似合わないことが多いらしいのだが、貴公子然とした彼の顔にはよく似合っていた。軽く上げた右手の袖からチラリと見える腕時計に照明が反射して、七星は顔をしかめた。
「どうした?寝不足か」
整った顔を崩して笑顔を浮かべている彼。
「何でそんなに元気なのさ」
「ん?」
昨夜、七星は彼と飲みに出掛けたのだ。帰る頃には2人共かなり酔っ払っていた。
それなのに……
(この差は何だ?)
七星は恨めし気な視線を彼に投げた。やけに肌ツヤが良い。
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