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「な…に……」
「中途半端でごめんね、ななちゃん。金森君が来るから続きは後で」
軽くウインクする昴。ドアをノックする音に七星は慌てて立ち上がる。
「社長、金森です。失礼致します」
ドア越しに聞こえる声。今にも扉が開きそうな気配に、七星は焦ったが、一方の昴はと言うと……
「う~ん、さすが金森君……早いなぁ」
「のんきなこと言ってる場合かよ」
上半身裸の状態で、ご対面する訳にはいかない。あたふたしていると、ドアが開き始めた。
「とりあえず、クローゼットに」
昴が耳打ちした。作り付けの立派なクローゼット。間一髪、七星はその中に飛び込んだ。
扉の合わせ目の僅かな隙間から、外の様子をうかがう。
(金森礼子……経理部のお局様か…)
そこそこ美人だが、お堅い性格で、いつもぼやきが絶えない。眉間に刻まれた深いしわは消えることが無い。
(見つかんなくて良かった……)
やっと鼓動が落ち着いてくる。
「で、何かな?金森君」
葉巻に火を付け、金森礼子に笑顔を向ける昴。礼子の顔は七星のいる方向からは見えない。
「ワインセラーの鍵をお持ちではないでしょうか?」
「あっ、ああ。ワインセラーね。あるよ……ちょっと待って」
ポケットを探っている彼。すべてのポケットをポンポンと叩いた後にしきりに首をひねっている。
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