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「聖夜くんっ」
木生が終わって、不意に呼ばれた。振り向くとそこには稜駿がいる。
「どうした、稜駿」
「あの、ありがとうっ」
「…ん?」
いきなり“ありがとう”と言われても、心当たりがないから、頭の中はチンプンカンプン。
「俺、なんかした?」
そう聞くと、稜駿はブンブンと頭を縦に振った。
俺はというと、やっぱり思い当たる節はない。
「ダンス!生放送で間違えずに踊れたのは聖夜くんのお陰だからっ」
あー…
そんなことか。
当たり前のことをやったことだからね。
「どういたしまして」
俺がそう言って笑いかけると、稜駿もホッとしたような笑みを零した。
「やっぱ聖夜くんは凄いなあ。すっごく憧れる!」
そんなこと言われたのは初めてだったから驚いてしまった。
だって憧れを抱かれる要素なんてないはずだし。
泣き虫は頑張って直そうと頑張ってるけど、やっぱりまだ拓巳や一磨に頼りっぱなしだし…
「しっかりしてて、頼れる先輩だよっ!本当にありがとうっ」
言われることは照れくさいし、しっくりこないけど、こんな俺でも成長したのかなって思った。
稜駿を見てると、昔の自分を見ているようだった。
ダンス出来なくて怒られて、でも優しく教えてくれる仲間がいた。
そんな仲間の大切さを知った俺が、今度は後輩に伝えていく番なんだな…
「これからも頑張ろうな」
「うんっ、よろしくね」
―ひとつの言葉は―
(また前に踏み出す力になった)
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