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先輩、先輩と僕の後ろをついて歩いてきてくれた元ちゃん。
僕をこんなにも慕ってくれた後輩は初めてだった。
そんな元ちゃんが今日はキャプテンをつとめている。
嬉しいような寂しいような複雑な気分で進行の練習をしている元ちゃんを見守った。
かなり緊張しているようで僕はたまらず元ちゃんの元へ歩み寄った。
「元ちゃん」
「あ、せんぱ~い…」
なんだか元気がなく、自信さえ失ったような声で元ちゃんはいつものように僕を呼んだ。
そんな元ちゃんの頭をなでる。
「大丈夫だよ、いつもの元ちゃんらしくいけば出来るから。頑張って」
後ろから見守ってるから。
そんな思いを込めて、僕はまた元ちゃんの頭をなでた。
「…先輩、ありがとう!よっしゃー、僕頑張ろっ」
エンジンが入ったように、また進行の練習を始めるため台本を読む元ちゃん。
さっきまでの表情とは違い、楽しそうだ。
元ちゃんキャプテンの本番の進行は、初め緊張していたものの、どこかキラキラしていて上手く出来ていた。
そんな時に呼ばれた言葉。
「拓巳おやび~んっ」
懐かしい呼び名。
いつもの“先輩”ではなく、僕が昔親しんだ人に呼んでいた“おやびん”。
なんだか恥ずかしくて、でも嬉しくて、僕は張り切った。
収録終了後、元ちゃんが僕を呼ぶ声がした。
「拓巳おやび~んっ」
「お、元ちゃん」
来るなり僕に抱きつく元ちゃん。
「僕の緊張を移しちゃってゴメンねー」
「いやいや。元ちゃん上手だったよ」
「おやびん、ありがとう」
「…おやびん、か」
「?」
「なんでもないよ。…じゃあ、今日は元ちゃん頑張ったし、アイスおごってあげようっ」
「やったーっ!」
―今日は記念日―
(“先輩”が“おやびん”に変わった日)
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