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秋の夕暮れは早くて、日中はまだまだ残暑で暑かったのに、日が暮れた途端涼しげな秋が装いを強くする。そんな中、今日の表参道は、この先の神社で行われる地元の豊穣祭の為にいつもの静けさは無く、日が暮れても尚増え続ける人で賑わっていた。
この参道沿いで、両親の跡を継ぎ、私ーーー三条雅は、和菓子処『みつば』を営んでいる。
「ミヤ!夜祭り行こうぜ!」
そう言ってみつばに駆け込んで来たのは、渋草色の甚平に、履き古した雪駄を引っ掛けた姿の一之瀬千だった。
千は保育園へ通う頃からの幼馴染みで、今は私と同じ様に実家の大工家業を継ぎ、日々建築現場で汗を流している。肌寒くなるこの時間帯にも関わらず、暑がりな千は気にせず袖を肩まで捲り上げて、現場仕事で身に付いた逞しい腕を惜しげも無く晒していた。
「早いね千。もう少し待ってくれる?今店を片付けるから」
沈む瞬間の西日が千の金色に染めた髪を照らし、オレンジ色に輝いて見える。
「片付けなんて後にしろよ。祭りが終わっちまうぜ?」
子供みたいな千。
早く夜店に行きたいと駄々をこねる姿が、男前な外見にそぐわず可愛くて、思わず私は笑ってしまった。
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