535人が本棚に入れています
本棚に追加
建物から外に出ると、空はどんよりと暗く、小雨が降り注いでいた。
じっとりとした空気が二人を包み込む。
建物の中にいた時は気がつかなかったので、少し気分が滅入る。
「ちょっとウロウロしてただけなのに降ってきたね」
「一時間はちょっととは言わないと思うけどね」
嫌味を言うラッセルは、斜め掛けのカントリー調の鞄を探ると、小さな赤い折り畳み傘を取り出した。
「ね、姉ちゃんの言うこと聞いといて良かったでしょ」
ラッセルはいつものように八重歯を覗かせて笑うと、傘を広げてアリスに差し出す。
「次からは、絶対遅刻しないでよね」
遠回しに本日の遅刻の件を許すと、ラッセルはアリスと肩を寄せ合い、小雨の降る紛い物の空の下を歩きはじめた。
色鮮やかな真っ赤な傘が小刻みに、そしてリズミカルに上下に揺れていた。
最初のコメントを投稿しよう!