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「……アタシが叶成との結婚を拒否したのは、医者になりたかったのもあるんだけどさ」
琉生が何を思い出して何を考えているのか、その陰りを帯びた横顔でなんとなく悟ったツバキは、気の紛れるような違う話を持ちかける。
「大学にさ、好きなやつがいたんだ」
「好きな人ですかっ」
瞬時に顔色を変えて食いつく琉生に、ツバキは、やっぱり女子高生なんだなぁと微笑を浮かべる。
「そう。アタシや叶成の同期でさ。叶成はもちろん将来が約束されたエリートだけど、好きだったやつ……レンは、生まれは貧しくて、努力で勝ち上がってきた、そんな奴だったよ」
「どういうとこが好きだったんですか!?」
「そうだなァ、誠実で、まっすぐなとこ……あと見た目」
「み、見た目……」
なんというか、実に人間味のあるというか、生々しい理由だ。
嘘でもいいからそこは中身に惚れ込んだと言ってほしかったと思わなくもない。
ツバキは容姿は端麗なので、異性の見た目を重要視するのも分かることは分かるのだけど。
「なんつーかこう、顔のパーツは整ってるのに、妙に無精髭の似合うとことか。叶成はお坊ちゃんだから絶対ないだろ?」
「ないですね」
「外見は野性的でもあるのに、賢くて冷静で自分の心に正直でさ。ま、そんなとこかな」
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