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「どうぞ」
「し、失礼します!」
「お掛けください」
「………?」
なんか今までとは雰囲気が違うような…?
面接官も若い男の人が多いし…。
「名前とオーディションを受けた動機をお話下さい」
「あ…13番、南息吹(ミナミ イブキ)。オーディション動機は……」
オーディション動機、それはたった一つ。
「南さん?」
「オーディション動機は…あたしがここにいる事を伝えたいんです、だからテレビに出たいんです」
家族に、母に会いたい。
あたしが知っている母は写真の中でだけ。
あたしを産んですぐ両親は離婚してそれから一度も連絡はない。あたしからも取れていない。
だからテレビに映れば元気だって伝えられると思った。
「テレビに出たいって…南さん貴方、これ何のオーディションだかわかってますか?」
「……………はい?」
「これは…」
「ねぇ」
女の人が説明しようとした時、隣に座っていた男の人が口を開いた。
「ねぇ、メディアって君にとって何?」
初めて顔を上げてあたしを見る彼は柔らかい笑顔の綺麗な顔をしていた。
メディアとは?
背水の陣なんだ、怖いものなんてあるか。
「…利用出来るもの、と思ってます」
「………そっか、ありがとう」
その質問を最後に彼はまた俯き、顔を上げる事はなかった。
その後、いくつか質問されて面接は終了。
歌とかダンスとか演技とかあると思ったのにそれもなく、こうしてあたしの人生最後のオーディションは幕を閉じた。
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