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襟足はそれほど長くないので、うなじが見えるかと思ったが、
どうしてだろうか…
まるで犬の首輪のこと、彼女の首をぐるりと一周しており、全く首は見えなかった。
流行だろうか?
とかジロジロ見つめていると、その首がキュッと右を向いて彼は慌てて視線を戻した。危ない危ない。
彼も男であって期待しないわけでもない。
かれこれ十数年生きて来て、浮いた話の一つもないので、とりわけ不細工ともつかないのにと親戚連中は冷やかしたものだ。
しかし彼の頭とは裏腹に、彼女はバスが来たことに気付いただけだった。
予期せぬ事態に、戸惑ってしまって、彼女は早く彼から逃げ出したかった。
自分でも真っ赤に火照ってる事は十も承知だから尚更である。
同じ高校の人で、更に同学年のようだ、ブレザーのラインの色で分かる。
白煙をぼうぼう吐くバスが軋みながら彼らに近付いて、彼女は救われた気分だった。
圧搾空気作動の扉が鳴いて開けば、彼が徐に右手を差し出した。
なにも言葉にはしないが、どうやら
゛先にどうぞ゛
といっているらしい。
彼女はぺこぺこ深く、しかし速く会釈し、足早にバスに乗り込む。
慌てて定期券を運転士に見せ、後ろの方にさっささっさ行ってしまった。
彼は傘を畳んで雫雨を振落とす。
運転士は早々と暖かい車内と外を区切り、彼は固い座席に座った。
後ろを向いても彼女はイスの影に隠れている。
あとはただバスに揺られた。
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