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とある裕福な家庭に彼は生まれた。
渡会(わたらい)家の長男として、名は芥(かい)という。
彼の父は自衛官。
左目を事故で怪我をし、視力は落ちているが、未だ現役の戦闘機乗りである。
だからか、あまり家に帰られず、母の永美は夫に付きっきりだ。
父は昔堅気か、ただの無口か、よく口の動く人間ではないが、よく酒の飲む人間ではあった。
彼もよく父の話を聞かされた物だし、父もよく祖父の話をついて聞かされた訳である。
よく聞かされたのは、戦闘機で敵の尻を追う時の話だった。
「いいか、芥。
たとえ敵機を追っててもな…。
こっちから奴の動きを操れんだ。
分かるか?
追おうとすれば、逃げられる…
追うんじゃない、相手に追わせろ………
…
ガタン!
芥が目を覚ましたのは、この街を通る電車の中だった。
いつの間にやら寝ていたらしい。
よりにもよって親父の話を夢に見るとは。
奴の話はよく頭に入っているが、何時考えても何が何やら…。
彼に取っては訳の分からないアドバイスだった。
子供なりに父の背を追う気持ちはあるが、父はそれも制した。
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