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今日の夕飯について真剣に考え始めたその時、ドアに挟まっていた部長がいきなりビクッと動いた。
死後硬直か?
……いや違う。
ギギ……とこじ開けられる引き戸。
やがて完全に身体を現した部長は、映画に登場するゾンビのようにフラフラと手足をくねらせながら俺の方に歩み寄ってきた。
「キモッ部長、こんな時になに馬鹿やって……」
言いながら俺は部長の様子がおかしいことに気づく。
部長は白目を剥いた状態でまるで何かに操られてるような動きをしているのだ。何より俺が言った《キモ》と《馬鹿》の二つの単語に反応しない何て事は絶対に有り得ない。
「ガア!!」
「!」
猛獣のような唸り声と共に部長が横からパンチを繰り出してきた。
俺は間一髪、後ろに上体を仰け反らせて回避した。
《モウチョットダッタノニ……》
部長が妙に甲高い声で言い、不気味な微笑を浮かべた。本当に気持ち悪い。
そうか……HANAKOが部長の体に乗り移ったのか!
そうとわかればこっちのもんだ。
「感謝します部長!」
俺は拳を固め、態勢を低くし下から部長の顎を狙い思い切り殴った。
《グフッ!イタイ!ヤメテオニイチャンカッコイ……》
「気持ち悪いっ!」
その姿で言われたら尚更だ。
……ごめん部長。
俺は容赦なく部長(花子)を殴り続けた、途中からテレビであれば花畑に《しばらくお待ち下さい》の画面が出ていただろう。
*
「――はっ!!」
俺はふと我に返った。俺は今何をしていたんだっけ!?
答えはすぐに見つかった。何故なら俺の右手には世にも無惨な姿の部長がしっかり掴まれていたからだ。
……やりすぎた。確実にやりすぎてしまった。
マズい、西澤と庄司に見られない内に何とかしなければ――
そう思いさっきまでうずくまっていた二人の方を見た俺は固まった。
時既に遅し。
世にもショッキングな表情の西澤と庄司がこの悲惨なリアルサスペンス劇場を見つめていた……。
「おっおっ、おはよう!」
俺は片手を上げて明るく誤魔化すしかなかった。
……その後この学校の校舎に、花子さんは出なくなったらしい。
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