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「渓、起きて」
言葉とともに謎の美少女は、男子生徒の肩を揺らすが、ぴくりとも反応しない。
「渓、起きてったら」
びき、びきぴき……
不穏な音とともに、女子生徒の額に青筋が浮かび上がる。背後には、くっきりと般若の姿。
周囲の生徒たちは、そそくさと逃げる者。耳に手をあてる者。苦笑を浮かべ、彼らの姿を見てみぬふりをする者。
皆、それぞれの対応を始めた。
「ねぇ、渓。いつも言ってるでしょ? 私が優しくしてあげてるうちに、起きなさいって」
「うーーんーー」
びぎッ。
渓からの寝言が引き金となり、
「起きろ、つってんだろが」
少女が吠えた。
ともに、固く握られた女子生徒の小さな拳が、いわゆるグーパンチが、突っ伏す男子生徒に致命傷を与えるべく、迫る。
鋭き軌道を描く拳はごう、という音をあげ……
「って、おいおい。毎日のことながら危ねえな」
必殺の拳がクリティカルヒットする直前、男子生徒は跳び起き、距離をとった。
結果、女子生徒の攻撃は空をきる。
「ああ、またバカ渓に避けられた」
「いやいや。避けるだろ、普通。当たれば死ぬって。玲奈(レイナ)も女なんだから少しは大人しくなれよ」
その男子生徒は、充分な距離をとり、毎日の事に苦笑を浮かべている。渓の紡ぎ出した声は、中性的であり、明らかになった顔もまた中性的で端正な顔立ちであった。
一方、玲奈と呼ばれた女子生徒は、鼻息荒く落ち着かないといった表情である。
「はいはい。もう毎日やけど、教室なんかで痴話喧嘩しんときや」
武田渓、田中玲奈以外の第三者の軽い響きを持った男の声が、渓の背後より響いた。
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