第一章

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  「渓、起きて」  言葉とともに謎の美少女は、男子生徒の肩を揺らすが、ぴくりとも反応しない。 「渓、起きてったら」  びき、びきぴき……  不穏な音とともに、女子生徒の額に青筋が浮かび上がる。背後には、くっきりと般若の姿。  周囲の生徒たちは、そそくさと逃げる者。耳に手をあてる者。苦笑を浮かべ、彼らの姿を見てみぬふりをする者。  皆、それぞれの対応を始めた。 「ねぇ、渓。いつも言ってるでしょ?  私が優しくしてあげてるうちに、起きなさいって」 「うーーんーー」  びぎッ。  渓からの寝言が引き金となり、 「起きろ、つってんだろが」  少女が吠えた。  ともに、固く握られた女子生徒の小さな拳が、いわゆるグーパンチが、突っ伏す男子生徒に致命傷を与えるべく、迫る。  鋭き軌道を描く拳はごう、という音をあげ…… 「って、おいおい。毎日のことながら危ねえな」  必殺の拳がクリティカルヒットする直前、男子生徒は跳び起き、距離をとった。  結果、女子生徒の攻撃は空をきる。 「ああ、またバカ渓に避けられた」 「いやいや。避けるだろ、普通。当たれば死ぬって。玲奈(レイナ)も女なんだから少しは大人しくなれよ」  その男子生徒は、充分な距離をとり、毎日の事に苦笑を浮かべている。渓の紡ぎ出した声は、中性的であり、明らかになった顔もまた中性的で端正な顔立ちであった。  一方、玲奈と呼ばれた女子生徒は、鼻息荒く落ち着かないといった表情である。 「はいはい。もう毎日やけど、教室なんかで痴話喧嘩しんときや」  武田渓、田中玲奈以外の第三者の軽い響きを持った男の声が、渓の背後より響いた。
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