第一章

4/14
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
  「痴話喧嘩なんかじゃ」 「はいはい。せやな」  玲奈の発言を遮った関西弁の男は、赤みを帯びた茶髪が印象的な男子生徒である。 「おはよう。佐伯(サエキ)。こっち来るなんてどうかした?」  渓が振り返り、男に話しかけた。  佐伯駿真(サエキ・シュンマ)は長身でがっしりとした体格である。軽く日にやけた体と、彼のもつ雰囲気がスポーツマンのような印象を相手に与えるのだ。 「よう、渓。明日、峡谷大学で学園祭やるやろ?」 「えっ。学園祭、明日だっけ?」 「そうよ。渓知らなかったの?」 「そっか。明日か…… 行くの面倒臭いな……」 「渓行かないの? 渓とまわるの楽しみにしてたのに……」  涙をうっすらと浮かべ、上目使いに渓を見上げる、玲奈。  いつの間にか、渓と話していた佐伯(サエキ)に変わり、玲奈が渓と話している。 「うっ。罪悪感が……と、なるとこなのだろうけど、玲奈、俺とお前は何年間の腐れ縁だ?」 「んー、初めから?」 「そうだ。もうかれこれ17年だ」 「幼なじみ、だもんね」  放課後の教室の中で、感慨深く話始めようとした二人。 「夫婦揃って昔話はやめろって」 「夫婦なんかじゃ」 「渓のことだから、忘れてるやろ、思うてな。まぁ明日拉致しにいくし、覚悟しとけや。んじゃ、俺、部活行くし」  再度、玲奈の言葉は遮られるのであった。  ふてくされた顔の玲奈ができ上がっているのは、言うまでもない。 「おう。じゃあな。玲奈、俺達は帰るぞ」 「うー、もう。行きましょう」  二人は、いつの間にか人数がちらほらとなっている教室を出ていった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!