第一章

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   ◆   「玲奈は明日、峡谷の学園祭に行くつもりだったのか?」 「当たり前じゃない。お祭りなのよ? ゴールデンウイークよ?」 「ああ。そうか」  二人揃って歩くは、帰り道。  まだ日が高いため明るく、二人が歩く通りには他にも歩く者が見受けられる。辺りを塀に囲まれ、家々が密集しているところより、住宅街なのだろう。  二人が通う常盤高校は渓、玲奈の自宅から近いため、歩いて登校しているのだ。 「明日、俺と佐伯についてくるのか?」 「えっ? そのつもりだけど?」 「ああ。そう」  そっけなく返事を返すなんて、まるで倦怠期の夫婦みてえ、一人の頬に苦笑がうかぶ。  それを目ざとく見つけた玲奈。その身長故に見上げる格好になってしまう。いつの間にか彼らの歩みは、完全に止まっていた。 「何笑ってるのよ?」 「ああ、いや、何にも」 「またやらしいこと考えてるのでしょう?」 「いやいや、何も考えてないって」 「絶対嘘だ。うー、もういいわ。早く帰りましょ」  渓の顔には、別の意味の苦笑が…… 「いや、もう目の前だし」  右手を上げ指し示す。 「ほら、着いた」 「…………」  渓の指摘に固まってしまう玲奈。それもつかの間、素早く走り出す。 「じゃあまた、明日」  元気に言い捨て、駆けていく。ちらと見えるその顔は、ほんのり朱く染まっている。向かう先は二軒並んだ家の左側。 「おう。また明日」  渓はゆっくりと歩いてて右側の家。扉に手をかけ、 「ただいま」  
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