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「……ふぇ? しゃくやしゃん……?」
ある日。季節は春。天気は晴れ。
暖かい太陽の光が降り注いでいるこの青空の下で、少し昼寝をしたくなるのも分かる。それは気持ちいいだろう。出来るなら私だってそうしたい。
しかし私にはやるべき仕事があるのだ。そう、先程まで幸せそうな顔で地面に大の字に寝転がっていたこの門番、紅美鈴(ホンメイリン)にも。
「美鈴、あなたね……」
「ふぁ……。んー」
私が呆れて溜め息をついているのも意に介さないかのように、この娘は欠伸をしながら手を大きく上げて伸びをしている。のん気なものだ。
伸びをした後、美鈴はいつも着ている緑色のチャイナ服についた土を払う。
そして“龍”の文字が入った星の付いた帽子を被り直し、こちらを向いた。
「っと。それで、」
美鈴の紅く、長い髪が、風で軽く靡(なび)いている。
「どうしたんですか? 咲夜さん」
美鈴が呼んだ“咲夜”とは私の事。十六夜咲夜(イザヨイサクヤ)。私の名前。
私達が働いているこの紅魔館の主から“貰った”名前。
「また図書館の本が盗まれたわ。しかも今度は二十冊も、ね」
盗んで行った犯人は霧雨魔理沙(キリサメマリサ)。自称、普通の魔法使い。普通という割にはなかなか手強く、追い返すのも一苦労だ。
そして、追い返した後は弾幕でめちゃめちゃになった廊下を掃除をしなければならない。しかも結構な頻度でやってくるため、私の頭痛の種となっている。
勘弁して欲しい。
「へ、へえ。それは大変ですね……」
目の前の美鈴が少しばつの悪そうな顔になり、目を泳がせている。心なしか、背が縮こまっている気もする。
「それだけじゃないわ。今回は妖精の悪戯のオマケ付きよ。おかげで館内は弾幕でボロボロな上に氷でカチカチ。今日はお掃除だけで一体何時間かかるのかしら……」
今日は魔理沙が湖のほとりにいる氷精を連れて来ていた。
時間稼ぎの為だろうか、おかげでいつもよりさらに酷い惨状になっている。
本当に勘弁して欲しい。
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