共にあると(幸佐)

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“人”であって“人”ではない 俺は真田幸村様に仕える只の“道具”。忍は道具だ。故に道具には感情なんてものは要らないし、あってはならないんだ 真田幸村その人に仕えるようになってからというもの、俺様の心は乱れっぱなし所為、其れというのも真田の旦那が何かと忍の俺なんかを慕ってくれるから “心”なんて代物俺には必要のないものなのに感情なんて持っては駄目なのに…日に日に俺の中でずいぶんと昔に氷結し閉ざされた感情がその主によって溶かされ湧き上がる 何時だったかあの人に自分は“道具”だと言ったことがあった。そしたら旦那は顔を歪め眉を吊り上げ「俺はお前を一度も“道具”だと思ったことなどない」と俺を叱った。何故だかその時俺は瞼の裏が熱くなり不覚にも泣きだしそうになった。嗚呼、俺様は何時からこんなに弱くなってしまったのか…答えはもう行き着いている、己の主真田幸村、その人だったのだ 本能が叫んでいる“感情”など捨てろ、要らない、あの人は俺の心を乱していく危険だ、と。感情なんてあっても邪魔なだけ、心なんて必要ないのだ捨てろ捨てろ捨てろ捨ててしまえ 幾度となく自らの心と格闘し、悩み苦しんだ 未だに思い悩むのだ、血に塗れた俺なんかが本当にあの方の傍にいて良いのかと それでも旦那は「俺から片時も離れることを赦さぬ。俺にはお主が必要なのだ」と云う 「…馬鹿じゃないの、こんな忍び一人に固執して、……でも、」(そんな御主君様も悪くは、ない) だからこそ俺はあの御人を護りたいと思う。喩えこの身が朽ち果てようとも俺はあの人の為ならば命を捧げる事をも厭わないだろう この血濡れの忍の魂 最期まで貴方に仕えることを 最期まで貴方の背を護ることを 誓いましょう 俺の全てを貴方に捧げる 終
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