第壱話 白き少女 ─神秘(mystery)─

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 ──西暦3028年。 『敵襲っ! 上空100万kmに敵星の戦艦を発見! シェルターへお急ぎ下さい!』  屋外に大量に設置されたスピーカー。危険を知らせるサイレンと共に、けたたましく男性の声が響く。 「セイドー! 早くしろ!」 「今行くっ」  父親の怒鳴り声にセイドは大声で返した。  思春期の少年に成長を遂げたセイド。細身の体だが長い手足、すらりと高い身長。既に父親よりも大きくなっていた。  セイドは眉間に皺を寄せつつ、大事な物だけを大きな鞄に詰め込む。軽く溜め息をつき窓から空を見上げる。相変わらず外のスピーカーからけたたましく響く声。どんよりと曇った空。時刻は現在4時。曇り空のせいかいつもより薄暗い。  セイドは曇った空を軽く睨み、大きな鞄を持って家を出た。  何故、今更戦争なんだ?  セイドは心の中で受取り手のいない文句を言いながら、両親と供に非難所(シェルター)へと走る。  沢山の人々が逃げ惑うシェルターへの道のりの途中、物陰より人々の苦痛に満ちた叫びと鈍い打撃音が微かに響いた。両親は気付かなかったが、セイドはその音が否に耳に入りふと足を止めた。  なんだ?  何の気もなしにセイドはそこを覗き込む。そして、息を飲んだ。そこには。  沢山の人々の死体。  手や足、時には首を切られた惨殺死体。立ち込める血の臭い。妙に鮮やかに映える血の赤。目に焼き付く、赤の世界。  吐気を覚える程の光景。  その、真ん中には一人の少女がセイドに背を向け佇んでいた。  華奢な体に細い手足、小柄な身長。腰まである長い綺麗な銀青色の髪。白系の衣服に白い肌。白の上に赤い斑点。……血。  いろいろな意味で、凄く目の引く少女。  少女は人の気配に気付き振り返った。瞬間、二人は目があった。  少女の瞳は、鮮やかな、赤。  セイドはまた、息を飲んだ。  真紅の瞳、長い睫毛、くっきりとした二重。整った顔。驚くほど美しい少女であった。  年齢はセイドとそう変わらなく見える。美しい瞳はどこか虚ろとも言える。意思が感じられない。  静かにセイドを見据えている。 「何ボサッとしてる。死ぬぞっ」  直後、すぐ父親に引っ張られ、セイドはその場を後にせざる得なくなる。  セイドの瞳が少女の姿を捕らえていたのは、1分もあっただろうか。  当時、セイクレッド=リーンカルスは15才。
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