ミネルバの梟

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 その残暑の日も、銀の冠を戴いたかの様なヘリポートが有る鉄道業者の本社ビルの社長室で、古めかしい黒縁の眼鏡をかけ、いわゆる七三分けの髪型をした初老の男が椅子に座り、手元に置かれたの書類に目を通しては判を押す、そんな作業を繰り返していた。  男の名は餘部(あまるべ)恭壱朗(きょういちろう)。  関西の二つの主要都市、大阪と神戸の都市を結ぶ摂西(せっせい)電気鉄道、略して『摂西電鉄』、『摂西電車』、或いはさらに略して『摂西』と呼ばれる、ここ一世紀続く歴史の古い鉄道業者の社長である。  彼は判を押す手を止めるとゆっくりと立ち上がり、両手を上げて背伸びをすると、おもむろに窓際に歩みより、外の景色を眺めた。  そこには摂西電気鉄道本社の最寄駅である蝦江(えびえ)駅と、摂西の本社ビルと比べて高くないオフィスビルと住宅とが立ち並ぶ町並みが拡がっている。  恭壱朗は蝦江駅に停車している水色の4両編成の電車に目をやると、思わず安堵したかのような笑みを浮かべた。  その時だった。
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