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「はぁ、はぁ…」
木を隠すなら森の中、とはよく言ったものだ。この一時間の間、目立つはずの白いドレスは影も形も見つけられなかった。
「くそっ……!」
悪態をつきたくもなる。藤原さんの心には『助けてくれた男の子』がいるんだ。
まだあの事は知らせていない。それなのにあんな事言ったら怒るのは当たり前じゃないか!
僕はそう思うんだけど、さっきまで一緒に探してくれていた(忙しくなったので別れた)木崎に事情を話し、この考えを伝えると、
「…この朴念仁[ぼくねんじん]が」
と言われた。…なんで?
「お嬢様はいらっしゃいましたか?」
突然声をかけられた。この言葉遣いは…。
「角田さんですか?」
振りかえるとやはりそこには角田さん――ボディーガードの一人――が居た。
「てんでダメです。とりあえず一通り回ってみたんですが…」
「そうですか」
角田さんは抑揚の無い声でそう答えると、トランシーバーを使って連絡を取り始める。相手は佐野さん――言うまでもなくもう一人のボディーガードだ――だろう。
連絡を取り終えたようで、角田さんはこちらを向いた。そして一言。
「お嬢様に何かあったとき…わかりますね?」
そう問い掛けてきた。僕もサングラスの奥の瞳に視線をぶつけるつもりで見返し、言った。
「そんなことは、させません。例え離れていても、自分がどうなっても、藤原さん以外の人がどう思っても」
そこで一旦言葉を切る。自分の覚悟を確かめるために。
だけど角田さんはもう終わりだと解釈したようで、また人ごみに戻っていった。
だから僕は最後の言葉は自分だけに聞こえるように呟く。
「…場合によっては、藤原さんが、僕の事をどう思っても、ね」
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