PM11時

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「はぁ、はぁ…」 木を隠すなら森の中、とはよく言ったものだ。この一時間の間、目立つはずの白いドレスは影も形も見つけられなかった。 「くそっ……!」 悪態をつきたくもなる。藤原さんの心には『助けてくれた男の子』がいるんだ。 まだあの事は知らせていない。それなのにあんな事言ったら怒るのは当たり前じゃないか! 僕はそう思うんだけど、さっきまで一緒に探してくれていた(忙しくなったので別れた)木崎に事情を話し、この考えを伝えると、 「…この朴念仁[ぼくねんじん]が」 と言われた。…なんで? 「お嬢様はいらっしゃいましたか?」 突然声をかけられた。この言葉遣いは…。 「角田さんですか?」 振りかえるとやはりそこには角田さん――ボディーガードの一人――が居た。 「てんでダメです。とりあえず一通り回ってみたんですが…」 「そうですか」 角田さんは抑揚の無い声でそう答えると、トランシーバーを使って連絡を取り始める。相手は佐野さん――言うまでもなくもう一人のボディーガードだ――だろう。 連絡を取り終えたようで、角田さんはこちらを向いた。そして一言。 「お嬢様に何かあったとき…わかりますね?」 そう問い掛けてきた。僕もサングラスの奥の瞳に視線をぶつけるつもりで見返し、言った。 「そんなことは、させません。例え離れていても、自分がどうなっても、藤原さん以外の人がどう思っても」 そこで一旦言葉を切る。自分の覚悟を確かめるために。 だけど角田さんはもう終わりだと解釈したようで、また人ごみに戻っていった。 だから僕は最後の言葉は自分だけに聞こえるように呟く。 「…場合によっては、藤原さんが、僕の事をどう思っても、ね」
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