凍った時間

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言葉ということは、伝えたいことが伝わらない時があるということ。不便だ。 表現というのも伝わりにくい。 本能なんてものは理解が届かない。 人というものは不便極まりない。 そんな不便極まりないものとして生をうけた。 そして不幸な死をとげた。 魂とやらは冥界に行ったのだろう。 ――――けれど意識が残った。 残留思念というのだろうか。 死と同時に意識は霧のように霧散した。 けれど、年単位で一カ所、俺が死んだ場所に集まる。 生物でいうなら蟻だ。 散らばり、巣に帰る。 俺はそんな存在になった。 意識だけ、というのは不思議だった。 命がないから死がない。 形がないから崩れない。 声も、脳も、なにもかも、全てがない。 ――――要するに、死だった。 無だった。 なにもない存在になる。 存在がなくなる。 その存在を自覚できるのが自分だけになる。 いないのだ。 自分というモノが。
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