深窓の姫君

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 ネヴラスカは丸い日避け傘を捧げ持つナスカの前を苛立ちながら歩いた。傘の周りにも薄絹が垂らされており、外から見ると彼女の生身はナスカが腕に取って擦り引かないようにした長い髪しか見えない。  ネヴラスカが貴族席に座る頃には既に凱旋行進は始まっていた。先頭はいつもながら空軍将軍オニス。彼女は彼が苦手だった。ムーナ人の典型的な美男子で、立ち居振る舞いも美しく、華やかなのだが、反面皇帝と同じ狡猾さと残忍さをその美の中に隠していると彼女には見えるのだ。  彼が彼女に恋慕の情を抱いているという噂は知れ渡っており、結婚の話すらまことしやかに囁かれていることは、彼女の頭痛の種になっている。ネヴラスカはオニスの甘い視線から目を背けて憧れのコーランを探した。彼は最後尾で獲物を捕らえた檻を繋いだ馬の手綱を引いていた。  いつもなら力強い視線で前だけを誇らしげに見据えているはずの彼は、何かを恥じるように俯いて疲れたような足取りで歩いている。彼の後ろでは檻に囚われたブラキオス人の女性と子供ばかりが泣き伏してひしめき合っている。中には生後間もない赤子を抱いた母親もいた。その母親は己と我が子を待ち受ける凄惨な運命を悟ったのか、凄まじい形相で慈悲を請い、腕を伸ばしている。
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