深窓の姫君

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 この得も言われぬ美しい少女は後二ヶ月で十六歳になろうとしている。ムーナルンドの女性は十六歳の誕生日に父親によって夫となる男性と引き合わされ、見ず知らずのまま結婚するのが通例だ。夫と妻は歳が離れているのが望ましいとされ、彼女の歳の場合でも三十前後の男であれば若い方。父親より年上の場合すら有り得る。  ネヴラスカは未来の夫と引き合わされる日が恐ろしくてならず、その前に死んでしまえたらとさえ望んでいた。そうすれば彼女は彼女のままでいられる。誰のものにもならない。 「姫様、お茶ができましたが」  彼女の侍女、ナスカが日々うちひしがれている皇女の肩を軽く叩いた。ナスカはネヴラスカの乳母でもあり、身分上は皇帝の奴隷で、彼女の母はブラキオス人だ。浅黒い肌をしているが、藍色の瞳だ。 「あと二ヶ月、二ヶ月しかないんだよ。一思いに刺し殺してって言ったら、聞いてくれる」 ナスカは呆れてため息をついた。何度も何度もその話。口を開けばいつもそうだ。 「またその話ですか。いい加減になさいませ。誰でもそうなんですから」
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