深窓の姫君

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 彼が独身であることだけが彼女の救いであり、彼の逞しく隆起した胸板に自分以外の女が抱かれるかもしれないという恐れは彼女を一層悲しく惨めにした。そのような嫉みの醜さが情けなく、皇女の品格に反することも分かっていた。夢の中で彼の抱擁を受けた時にははしたなさと未練で一日起き上がれなくなったほどである。  彼は今、皇帝の指令により狩りへ出ている。哀れなブラキオス人の弱小国家でも討ち滅ぼして大勢の奴隷を持ち帰ってくるはずだ。何もなければ良いのだが。 「狩りは危険なんだよ。いつも死人が出ているじゃない。コーラン……」  翌日の朝、地鳴りのような銅鑼の音にムーナルンドは震えた。狩りの戦士達が帰還したのだった。獲物を積んだ巨大な帆船が勝利の軍旗を高々と掲げて港に到着する。戦士達を乗せた空中帆船は滑らかに下降しながらその隣に不時着した。  ネヴラスカは体を幾重にも美しい薄絹に包み、顔まで覆い隠してからナスカを伴って外へと繰り出した。ムーナルンドの貴族女性は父親と夫、男兄弟以外の男性に姿を見られることははしたないとされ、外出すら本来は謀られる。
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