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「それじゃあそろそろ昼にするか」
「うん!」
礼司さんが言うと、エムエムが一段と元気に返事をした。
一緒に食べていくかと誘われたが、遠慮しておいた。
初対面の人間の家に上がり込んで、一緒にご飯をもぐもぐするなんて図々しさは、今の所持ち合わせていない。
またねと言ってエムエムが手にしていた魔法の杖を振る。
僕もそれに手を振って答えた。
来た道を戻ろうと踵を返したところで、礼司さんに声を掛けられる。
「最近、物騒な事を起こそうとしている連中が増えてきてる。気をつけて帰れよ」
こんな昼間から物騒を起こす奴もいるのか。
とりあえず気遣ってもらった事に感謝の意を表し、礼を言っておく。
というか、危ない奴がいるんなら、子供を一人で外に放り出さないでほしい。
礼司さんが言葉を続ける。
「まあ、お前は大丈夫か」
何かを確信しているようなその言い方に、僕は小首を傾げて見せる。
背ばかり高くて筋肉の付いていない体が、服の上からでも見て取れると思うのだが。
一つの可能性に思い至った僕は、なるべく平素の態度で問いを返す。
「僕はそんなに強そうに見えますか?」
「かなりね」
意識していた割に挑発的になってしまった声音に、礼司さんは即答した。
たぶん、おそらくだが、それでも十中八九、この人は気付いている。
何だか分からない風を装うために、苦笑いでまさかまさかと返しておく。
しかし、気が付いていると僕が気付いたことにも、礼司さんは気付いているだろう。
目を細めたあまり友好的とは言えない笑みが見える。
目付きの悪さが強調され、随分と凶悪な印象を受ける。
その笑みを別れの挨拶代わりに、礼司さんは踵を返し家の中へと入って行く。
何事も無かったかのように、エムエムにお昼は何がよいかと問い掛けながら。
エムエムが呑気にハンバーグと答えながらそれに続き、扉が閉まった。
一人残った僕は陽の高くなった空を見上げ、冷たい空気に向かいひとりごちる。
「カレーじゃないのかよ……」
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