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「少年! 反撃の一つでもしたらどうだ! でなければ興醒めだぞ!」
「って言われてもなぁ! 素手の俺がランスを持った男にどうやって勝てと!」
しかし――刃物を向けられることに慣れたとはいえ、刃を向ける相手と状況がこうも変わると、一切の余裕は奪われてしまうようだ。
清々しいほど晴れ渡った空の下、まだ新鮮さが残る高校校舎の中庭にて、俺は手短に言えば殺されかけていた。
その得物は長刀とは違う、西洋の槍。
良くRPGで騎士が持っている鋭い円錐型の槍、ランス。
実物で見るのは初めてだが、長いリーチを持つランスから繰り出される一撃は想像していたよりもぞっとする。
そのランスを扱うのは俺と同じ制服を着た男。
身の丈は身長一七五の俺と対して変わらない。
だが、程よく鍛えられた肉体の所為か制服が少しぴちっとしている。
顔付きも精悍で兄貴と叫びたくなるような雰囲気を醸し出しているが、この「少年!」とかいう口調が全てを台無しにしていた。
「ふんっ!」
しかし、しかしだ。対幼馴染で培った俺の回避能力で何とか避けられている(半ば偶然)現状だが、頭上や顔横を通過するその重量感は半端ではない。
少なくとも、鍛えているとはいえ一高校生が扱えるような代物じゃないはずなのに、男は笑みを浮かべ、まるで達人の如き槍捌きで俺を圧倒する。
「……なんでだ! 何で俺を殺そうとするんだ! それにあんたは誰なんだよ!」
鬼人の猛襲の中を掻い潜り、当然の疑問を叫ぼうと男は一笑するだけ。
そんな男の悠然とした姿に俺は下唇を噛み締めることしかできずにいた。
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