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恐怖は加速し、頭の中で走馬灯が駆け巡る。
世界がスルー再生されているような錯覚に陥り、不思議と決心が固まる。
あぁ、俺、死ぬのかって。
諦めてしまえば気が幾分か楽になった。
これから俺はあのランスに貫かれて、血が溢れ出て、意識が薄れて、そして最後には――。
「まだ諦めるには早いんじゃないかな、少年!」
突如。遥か後方から活発な女の子の声がした。
「少年」とは言うものの男とは違い、そこにはからかい半分面白さ半分が含まれている。
そして、遥か後方から聞こえたと思われた声の主は、一気に跳躍し、男に果敢に飛びかかったのだ。
「貴様……! 《ネコ》か!」
瞬間。一際甲高い音が辺りに鋭く響く。それは金属と金属。武器と武器とが衝突した時に発する音だ。
空中で競り合うランスと短剣。
男も突然な乱入者にランスの矛先を俺から変更し、ランスの腹でその短剣を受け止めていた。
「君は……誰だ?」
舞うように宙を滑り、しなやかに着地する彼女の背中に俺は恐る恐る問い掛ける。
声が震えていたのは安堵しつつも短剣を持つ女の子に対して警戒心を抱いていたからだ。
「ふっふー、誰だと思う?」
しかし、女の子は短剣を男に向けながらもおどけた声で質問を質問で返した。
女の子もまた、見覚えのある格好をしている。
うちの高校の指定の女子用制服。夏用のシャツの短い裾から伸びるしなやかな腕。コスプレ用なんじゃね? と思わせる赤のストライプが入った可愛いスカートからは健康的な脚が伸びている。
だが、脚フェチであるはずの俺が活目したのはそこではない。
「私はねぇ……」
ふりふりと目の前で揺れ、ぴこぴこと動く人間にあるはずがない頭部のそれは、まごうことなく。
「君を助けに参上した、正義のヒーローさ!」
ネコ耳としっぽだった。
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