53人が本棚に入れています
本棚に追加
―ヤバい…
君武がそう思った時…
―ぎんっ!!
空気を歪ませる音と共に、君武を守る様に淡く光る青い障壁が現れる。
その障壁は、完全にではないが、ガルムの炎を防いでいた。
せいぜいドライヤー程度の熱気しか感じられない。
「なんだ?これ?」
君武はその障壁を、思わずマジマジと観察する。
『そんな事をしていて良いのか?神威に獲物を取られるぞ?』
攻殻は軽く笑いながら―といっても君武にはそうは見えないだろうが―君武をからかう。
『因縁浅からぬ相手なのだろう?早う行け。攻殻分かっておるな?』
ガルムに飛びかかりつつその鎌を振るう斬鉄姫。ガルムはかろうじて飛び退く。
『当たり前だ』
「でっけぇカマキリ!!」
攻殻の返答に被りまくる君武の驚きの声。
『えぇい!!早く行けと言うに!!ザン!!』
斬鉄姫は、鎌の斬撃をバックステップでかわしたガルムの着地にあわせて、真空波を放つ衝撃魔法で追い討ちする。
放たれた魔法はガルムの体表に無数の切り傷を刻みつける。
ガルムはたまらず苦鳴をあげた。
「サンキュ、カマキリ」
言って一気にパンク男に向かい駆け出す君武。
攻殻もそれに続く。
『だからカマキリじゃなく斬鉄姫じゃと言うに!!…すまぬがこのストレス、お主で発散させて貰うぞ』
斬鉄姫はガルムに向かい冷たく言い放つ。
『オレサマオマエラユルサナイ。オマエラゼンインマルカジリ』
言って低く唸るガルム。
『じゃが弱いと思われるのも心外じゃ…ここは一気にいくとするか…』
斬鉄姫の顔に浮かぶ淡く赤い五芒星が、その輝きを増す。
『フザケルナカマキリ!!』
怒鳴り駆け出す妖獣ガルム。
『妾に課せられた任は牽制であったが…』
怒気を孕んだ声と共に、斬鉄姫の鎌に五芒星と同じ禍々しい赤い光が灯る。
『…虚空斬破…』
斬鉄姫は呟き両手の鎌を振るう。
―ギチィ!!
振るわれた鎌は空間その物を断ち割り、存在する空間ごとガルムを切り裂いた。
―ぐじゅる…
妙な音をたてて切り裂かれた空間が自己修復をする。
同じく空間ごと断たれた樹木が元通りになるなか、ガルムだけはそのまま真っ二つになり崩れ落ちた。
『…片付けてしまっても問題はあるまい。妾を莫伽にした報いじゃ…』
冷たく言い放ち斬鉄姫は神威をフォローすべく踵を返す。
―が…
『ストレス発散出来ておらん…』
その悲し気な声は誰の耳にも届いていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!