自分の為?あなたの為?

8/54
前へ
/477ページ
次へ
「もうっ! お金なんて取るわけないでしょ!これは君達の為にとったんだから。」 結衣さんは優しい笑顔を僕に向けてくる。とても美しく可愛い、魅力的な笑顔。 見ているだけで心が洗われるようだ。 僕は先程、結衣さんに無理矢理ほうり込まれた寿司をもぐもぐと味わう。 おいしい。 こんなおいしい物を僕は初めて食べた。 昔から貧乏だった僕は、まともな食事をした経験ということがほとんどなかったからなぁ。 いつもいつも、自分が生きて行ける最低限の物しか食べれなかった。 僕はそんなことを考えていると、何故か鼻のあたりがつんっとしてきた。 よく分からない感情が、僕の胸の中心から溢れ出てくるのを感じる。 僕はそれを止めようとしない。いや、止めることが出来なかった。 「うっ……」 「……?雪くん?」 僕は瞳いっぱいに涙をためる。もう視界が涙でぼやけるほどだ。 結衣さんが心配そうに僕の顔を覗き込む。 しかし今の僕には逆効果。 僕はその優しさのせいで耐え切れなくなり、ついに僕の瞳から、勢いよく涙が流れ始めた。
/477ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5742人が本棚に入れています
本棚に追加