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「ガザくん…」
俺の腕の中で、戸惑った表情を浮かべた彼女は、何かに気づいたように笑顔になった。
「ありがとう。嬉しい」
『嬉しい』…って、じゃあ「マリィ」俺のこと…。
右腕だけじゃなく、両腕で抱き締めようとした俺に、マリィは無邪気に。
「何だか元気が出てきた。モテモテのガザくんにそういう事言われたら、嬉しいな」
え。
「励ましてくれて、ありがとう。嬉しい、です」
頬を染め、とっても嬉しそうなマリィ。
励まし、ですか。そうですか。
思えば、今まで、このパターンで何度痛い思いをしたことか。
過去の『痛い思い』の数々が、頭の中で走馬灯のように映し出される。
「憧れの男性に、『魅力的』なんて言われたら、過剰に自信を持ってしまいそう」と舌をぺロッと出して見せた。
ふーん、憧れの男性に、ね。ふーん、どーせ…あれ?
「ガザくんの幼馴染で、よかった」
ニコニコ顔のマリィ。
「なぁ」
「はい?」小首を傾げるマリィ。
「『憧れの男性』って?」
「だって」マリィは凄く真剣な表情で「頭が良くて、性格も良くて、仕事が出来て、格好良くて、背も高くて。ガザくん、すっごく人気があること、気づいている?」
…マリィほど鈍くないので、気づいているが。
「わたしもずっと憧れていた一人、だったの」
え…「えーっっっ!!」
「そんなに驚かないで…あくまで、憧れていた、というだけだから。恋人なんて、無理だと解っていたし…」
無理じゃない。それどころか、大歓迎!
「でも、それを言ったら、啓さんの『恋人』も無理なのかも…わたし、取り柄もないし、死神だし」あ、そうだ。
マリィの表情が晴れ晴れとなる。
「啓さんに聞いてみたらいいんだ。そうしよう」
ちょっ、ちょっと待て。
「何を聞くつもりなんだ!」
「何って」きょとんとした瞳で見返し「『わたしって、魅力ありませんか?』って」
な、何だとーーー!
俺の脳内が燃え上がった。すでに許容範囲は超えている。
「じゃ、頑張ってきます!」
元気に言って出て行ったマリィ。
俺が我を取り戻し、後を追うにはもう少し時間がかかりそうだ…。
俺が『憧れの男性』ってことは…啓さえ居なくなれば、望みは繋げるということなのだろうか?
いや、きっとそうに違いない。
望みがある限り、諦めない。
好きなんだから、仕方ない、だろ?
<fin>
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