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仕事が終わり、本日のノルマ達成のチェックリストをエンカリーナさんへ提出。
そうして、深い溜め息をつきマントを脱いだ。
「どうした、ガザ」
エンカリーナさんが心配そうな表情で「顔色が悪い。目の下にもクマが出来ている。寝不足か?」
さすがに『全死神(みんな)の姉御』を自称するだけあって、鋭い。
「昨夜、急に呼び出しが掛かって、仕事する羽目になったので」
「あぁ」俺のセリフに、彼女は少し哀しい表情になり「人間界の大型旅客機の墜落事故で、大量の死者が出た件か」
そう。
乗客・乗務員が全て死亡してしまった事故だった。
でも、それでも、本来、俺は呼び出されるはずではなかった。
「最近、妙な動きがあるようだ」
エンカリーナさんが独り言のように呟く。
「『死者目録』の人数が、急激に増えているような気がする。予定人数がいつの間にか割り増しにされている、っていうのか。そんな感じ」
「ええ。俺も感じます」
しかし、『死者目録』をいじることなど、『ただの死神』に出来るはずなどない。
生死を司る神聖な代物、修正をかけるには、それ相応の代償を必要とする。
…マリィ達のように。
いや、あれって、『代償』じゃないよな。どう考えても、あいつにとっちゃ『幸運』じゃないか。
愛しい幼馴染のふんわりとした笑顔を思い出し、そして、恋敵であるあいつのヘラリとした笑い顔を思い出すと、自然と拳に力が入った。
前田 啓(まえだ けい)、許すまじ!
「ガザ」
エンカリーナさんの呆れたような声に、ハッと我に返った。
いかんいかん、冷静になれ、俺。
「また『愛しのマリィ』のことでも考えていたのだろう」
う。鋭い。
「そんなに惚れているなら、力尽くで奪えばいい。分としては、お前の方があるんだ」
ニヤリと笑って見せる様は、悪女。
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