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でも。それは「出来ません。俺は、マリィの『心』が欲しいんです」
曇りのない笑顔を向けて貰えなければ、本当に彼女を得ることにはならない。
「相変わらず、変なところで律儀だな。…お前らしいが」
くっくっと笑い、手にしたペンで俺の腕をつつく。
「しかし、もったいない。お前の事を想う者達も多いのに、肝心のお前が叶わぬ恋に一直線というのもな」
「…叶わぬ恋、ってのは止めてください」
叶えるつもり、なんだから。
「そんなに不貞腐れるな。…だからこそ、お前は『いい男』なんだろうから」
目を細めて見つめられ、そんなセリフを吐かれても、それは全然誉めてない。
「じゃ、俺は帰ります」
「あ、待て」エンカリーナさんが慌てたように引き止め「マリィに会うのか」
「ええ、まあ、約束していますから」
不本意ながら、啓の野郎への誕生日プレゼントを選ぶのに付き合う約束を。
『何だかね、ガザ君と啓さんって、趣味とか似ているの』
あんな笑顔向けられて、『お願い』なんて手を合わせられたら…断れる奴がいるんだったら、出て来い。
「だったら、しばらくマリィの身辺に気をつけてやれ」
真剣な彼女の声に、俺は戸惑った。
「どういう意味です」
「最近の妙な動きの中に、『純粋派』がちらほら見える」
純粋派。
「『死神は純血のみで構成されなければならない』なんてことを言っていた、アレ、ですか? でも、確か、指導者が追放になって、消滅したはずでは」
エンカリーナさんが苦々しげに「ああ、その通り。だが、どうやら新しい指導者が現れたようだ。しかも、かなり求心力のある、な」
「マリィは人間とのハーフ、しかも今、人間と婚約中。標的にされやすい立場だ」
精霊族とのハーフくらいなら、まだお目こぼしがあるだろうが。
彼女の危惧は、きっと間違ってはいない。
死神から見れば、あくまで人は弱い存在でしかない。
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