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「あの子に何かあったら、麻里(まり)ちゃんに顔向け出来ない」
麻里―マリィの実の母親の名前。
その名を口にする者は、何故だか皆優しい表情を見せる。
その理由は、何となくわかる気がしている。
「マリィは良く似ているから」
「らしいですね」
なら、きっと、俺もマリィの側に居る時、同じような表情をしているのだろう。
あぁ、やばい。
エンカリーナさんと話していたせいで、約束の時間に遅れそうだ。
とはいえ、待ち合わせは同じ建物内の休憩所。あっちも仕事が終わってから、ということだったし、遅れた所で怒る相手ではない。
怒るどころか、『大丈夫だった? 何かあったの?』と心配してくれるだろう。
優し過ぎるほどに優しい。
だけど、優しいだけじゃない。
だからこそ、俺は魅かれてしまう。
「あーあ」何回好きだと言ったなら、気がついてくれることだろう…しかし、その鈍さもまた『愛しい』と思えてしまう俺は、相当な重症患者。
休憩所の前に着いた。中から話し声が聞こえ、その内の一人はマリィの声。
『で、でも…』
焦ったような、困ったような声に、エンカリーナさんのセリフを思い出す。
『標的にされやすい立場』
いきなりか?!
「どうした! マリィ!」
勢い良く扉を開けると、びっくりしたように振り返るマリィと、ゲゲッというような表情の、良く知る先輩方がいた。
「お、おや、ガザ君、早かったな」「お仕事、大変だったみたいねー。お疲れさま」「マリィ、待ち人が来てよかったな。んじゃ」
そのまま、そそくさとみんなして出て行きました。
「あ、お疲れ様でした」
お辞儀をして見送るマリィは、どこか浮かない表情。
「マリィ、どうした? 何か嫌なことを言われたのか?」
もしそうなら、俺がどんな報復でもしてやる。
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