水の底

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音も光も無い世界。 私は水の底にいる。 ただ深い水の底で体を横たえて、生ぬるい水につかりながらまどろんでいる。 ……コポポ… 遠くで水泡が上がる鈍い音がする。 少しだけ辺りが柔らかく明るくなって、私は目をつぶったままぼんやりと意識を戻した。 (……。) もう少しこのままでいてもいいか…。 今は何も考えたくない。 私の体の上には大量の水 があって、有無を言わせずに征服されているような、押し潰されそうな感じがたまらなく心地いい。 (時間…そうだ。今何時だろう?) ゆっくりと目を開ける。 『……痛ッ。』 見覚えのある天井。 コンクリート向きだしの、変な天井。 デザイナーが設計したとかいうのが売りの変わった建物の部屋には天窓が付いていた。 (あ…。雨、降ってる) まだ明るい午後、天窓に滴る雨がキレイ。 まだ、眠れそう。 でも…お腹痛い…。 少し唸りながら、トイレまで歩いた。 目に飛び込んで来たのは、赤。 鮮血。 『……あ…。』 色々な思いが一瞬で頭をよぎった。 胸が苦しかった。 声を殺して鳴咽しながら泣いた。 ただ、苦しかった。 心臓をぎゅっとつかまれたみたいに。 『うぅッ!うー…!!』 ボロボロと涙がこぼれた。 まだ、終わって無かったの。気持ちの中で何も納得してなかった。 (赤ちゃん、いなくなっちゃった…!)
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