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銀髪の少女を家に運んでから一晩明けた朝、拓は引きずるような足取りで登校していた。
昨晩、少女の残した「変態」というたった一言で心をバッサリと斬り捨てられた拓は、その痛みに堪えながらも何とか少女の身を案じる言葉を口にしたが、それに対する返答はかなり冷たいもので「私が変態の介抱を受けるとでも? 冗談は顔だけにしてくれ」と冷淡極まりない声で言われたのだ。
「う、……思い出したらなんか泣けてきた」
拓は塀に顔を向けて目頭を押さえる。だから拓は気付かなかった。自分の方に走り寄ってくる女子生徒の存在に。
「おはよっ! 拓!」
接近するなり、女子生徒は思いっ切り拓の背中を叩いた。
叩かれた衝撃で拓の体は前方に傾ぎ、当然のように塀に頭をぶつける。
ゴス! と鈍い音がし、堪え難き痛みが拓の額を襲う。しかし、拓は堪え難き痛みを堪え、背中を叩いてきた女子生徒にユックリと振り向いた。
「あ、あれ? 拓、なんか眼が殺人鬼並にやばくなってるよ……」
今の拓に恐れを抱いたのか、後ずさる。
「えーと、ひ、一つ聞きたいけど」
「何だ?」
「怒ってる?」
「当たり前だ!」
女子生徒は上目遣いに可愛らしく尋ねたが、拓は容赦無く怒りの鉄鎚を下した(ただのチョップ)。
「たくっ、朝っぱらから余計な事をしやがって。普通に挨拶しろよな、香織(かおり)」
拓は隣りを歩く女子生徒を責めるように睨む。
彼女の名は高階 香織(たかしな かおり)。
栗色のショートヘアーに活発な印象を受ける生気に満ち溢れた眼が特徴的で、起伏の乏しいスレンダーな体の持ち主である。
拓とは中学からの付き合いで、学校のクラスメイトでもある。俗に言う腐れ縁というやつになりつつある。
彼女、香織は誤魔化すように笑った。
「あははは、……私も最初は普通に挨拶しようとしたんだけど、拓の沈んだ様子を見てたらつい手が出ちゃったのよね」
「悪い、もう一回殴って良いか? 今度は肩パンで」
「ちょ、冗談よ。本当は拓を元気づけようとしたんだよ。……本当だよ?」
様子を窺うようではなく、本当に拓の身を案じるように眉を寄せて香織は上目遣いに拓の顔を覗きこむ。
拓は香織のその顔に弱く、強く出る事が出来ずに納得いっていなくてもつい「それは……ありがとな」と照れながら許してしまうのである。
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